GISおよびIT/ICT技術に関して、4DGIS Labが独自で研究した事案やサポートさせていただいた研究の成果等をご紹介いたします。

 

災害関連オープンデータの作成と視覚化 2020
~令和2年7月豪雨 被害情報のビジュアライズ~

災害時における被災地への情報支援を目的として2019年5月24日に結成されたN2EM(National Network for Emergency Mapping)では、災害対応に必要な情報を収集・集約し、広域的かつ統一的なオープンデータの作成を行っています。
N2EM主幹の下、4DGISLabは令和2年7月豪雨災害および梅雨明けまでに発生した豪雨災害に関する住家被害・給水断水データを収集・集約しました。オープンデータとして公開された「住家被害」「断水・給水」を4DGISLabが編集・加工して、WEBマップとして視覚化しています。

 

マップ 『令和2年7月豪雨 被害住家状況』
地図内の行政ポリゴンは、人口当たりの被災住家によるグラデーション表示を設定しています。
地図を開いた後、以下の操作を試してみてください。


・地図の行政ポリゴン(面)にカーソルを合わせると、属性がポップアップ表示されます
・地図の行政ポリゴン(面)をクリックすると、対応する表がハイライト表示されます
 (逆に表をクリックすると、それに対応する行政ポリゴンがフィルタリングされます)
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時系列データ 『令和2年7月豪雨 断水・給水状況』
クロス集計表は、断水・給水対象戸数によるグラデーション表示を設定しています。
クロス集計表を開いた後、以下の操作を試してみてください。


・集計表内のセルにマウスを合わせると、属性情報がポップアップ表示されます
・集計表内の発表日時(列)をクリックすると、その時点に対応する地図内の市町村役場が選択されます
 (県名・市町村名(列)の選択から、行政毎の一括フィルタリングも可能です)
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作業期間
オープンデータ作成 : 2020年7月04日 ~ 2022年7月04日
視覚化1 ~被災住家状況~ : 2020年7月14日 ~ 2022年7月04日
視覚化2 ~断水給水状況~ : 2020年7月27日 ~ 2020年9月03日

 
作業環境
データ入力  :Googleスプレッドシート
クラウド環境 :Googleドライブ
データ編集  :QGIS 3.10・Microsoft Excel
データ視覚化 :Tableau Desktop 2020.2.2

 
データソース
図形データ1:行政区域データ
        形式:SHP
        更新:令和2年1月1日
        出典:国土交通省国土数値情報
図形データ2:市区町村役場データ
        形式:SHP
        更新:平成26年8月31日
        出典:国土交通省国土数値情報
属性データ:住家被害データ & 断水・給水データ
        形式:CSV
        更新:令和2年7月4日より随時
        出典:N2EM(N2EMと連携し、関係機関発表の被害情報を入力)

 
キーワード
・災害発生時におけるデータ収集および数値化
・統一フォーマットでのオープンデータ化
・オープンデータのGIS化 & WEBマップ化
・時系列データの視覚化処理 & WEB公開
・リモート環境における関係機関との連携作業

 
作業概要 ~リモートボランティア活動について~

発表情報(7月6日11時 出典:気象庁)

令和2年7月3日からの大雨は降り始めから断続的に数日間続き、九州南部だけでなく全国的な災害を起こしました。

降雨は、県境等の行政区域を超えて発生します。
大規模な豪雨災害に繋がってしまった場合、被災の深刻さ・面的な広がり等を把握する事は困難となってゆきます。

令和2年7月豪雨災害に際して、被災地への情報支援を目的とするボランティア組織“N2EM”では、住家被害・断水給水等の情報を収集して統一的なフォーマットに集約し、オープンデータとして災害関連情報を公開しました。


【住家被害について】
住家被害の発生した以下12県について、各県の災害対策本部から発表される情報を収集・集約しました。
・九州地方7県(福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県・大分県・宮崎県・鹿児島県)
・山陰地方1県(島根県)
・東海地方1県(静岡県)
・中部地方2県(長野県・岐阜県)
・東北地方1県(山形県)


【断水・給水情報について】
災害発生により上水道が断水し、給水が必要となっている全国の46関係団体(市町村・事業団体)に関して、厚生労働省から発表される断水・給水情報を収集・集約しました。

データ作成フロー&チェックポイント




【N2EMとの連携作業について】
N2EM主幹の下、4DGISLabでは7月4日から情報の収集・スプレッドシートへのデータ入力を行いました。リモートでの相互連携作業となるため、以下に留意しながら作業を進めました。
・統一データ化に関する作業手法
・作業内容の共有(作業マニュアルの作成)
・作業分担領域の共通認識
・SNS等を活用した情報共有(着手及び完了報告・疑義解消等)


【オープンデータ公開について】
入力されたスプレッドシートをソースに、N2EMホームページからオープンデータ(CSV形式)として情報が公開されています。
また、N2EMがオープンデータとして公開している“住家被害”、“断水・給水”については、防災科研クライシスレスポンスサイトにおいて地図上に視覚化されています。

 
作業概要 ~令和2年7月豪雨 被害住家状況について~
N2EMの一員として災害関連データの収集・集約を行い、N2EMによって公開されたオープンデータ(CSV形式)のうち“住家被害”について、4DGISLabが編集・加工して、地図上へのビジュアライズを行いました。

被災住家状況




【コンセプト】
・オープンソース系ソフトウェアの使用
・データ更新作業の省力化手法の検討


【視覚化について】
下欄[出典]に記載するデータを基礎データとして使用しました。
各基礎データは、視覚化環境である“Tableau Public”内でそれぞれ独立した形で存在させており、市町村コードによるテーブル結合により1つのGISデータとして形作られます。
オリジナルのオープンデータ“住家被害”には存在していない“住家被害合計 ÷ 人口”をTableau内で算出して、この値によってグラデーション表示しています。


【データ更新について】

データ視覚化スキーム


初回構築以降のデータ更新作業に掛かる手間を省力化するため、Tableau内の属性データ“住家被害”は、Googleドライブ(4DGISLabアカウント)を参照するように設定しています。
これにより、
・オープンデータ等によるスプレッドシート更新
・Tableauでスプレッドシートのリロード&上書き保存
この2ステップでの地図更新処理としました。


【考察】
今回、CSV形式で公開されているオープンデータを属性データに用いているため、最新状態へのデータ更新時にはコピー&ペースト等の作業が発生しますが、Googleドライブ内 スプレッドシート間の直接更新であれば、1ステップの更新作業とすることが可能となります。
データアクセスに関する適切なセキュリティ確保・データ更新に関する責任所在等、ルールの明確化が必要となりますが、遠隔地に居住する有志同志を繋ぐ地図更新スキームの一案となるかと考えます。


【追記】
2020年7月4日(令和2年)発災以降、各県から発表される被害報の入力・視覚化を行ってきました。
ほぼ月1ペースで発表が継続していた熊本県に関して2022年4月1日以降の被害報発表が無いことから、発災から2年が経過した2022年7月4日をもってデータ更新作業を完了とすることとしました。

 
作業概要 ~令和2年7月豪雨 断水・給水状況について~
N2EMの一員として災害関連データの収集・集約を行い、N2EMによって公開されたオープンデータ(CSV形式)のうち、“断水・給水”について4DGISLabが編集・加工して、地図上へのビジュアライズを行いました。


【コンセプト】

断水・給水状況


・逐次追加されるデータの更新手法の検討
・時間をキーとするデータの視覚化手法の検討


【視覚化について】
発表日時毎に独立したCSVとして保存されている断水・給水データを集計し、発表日時を列に、市区町村を行に設定して表示しています。オープンデータに格納されている“戸数”の値によってグラデーション表示しています。
クロス集計表と市区町村ポイントを市町村コードでテーブル結合し、集計表と地図が連動するように設定しています。


【データ更新について】

Tableau Desktop


“断水・給水状況”は、時間経過による変化の視覚化を主眼に置いています。
データを逐次追加・蓄積してゆくため、常に最新情報を表示する“被害住家状況”とは異なるデータ更新手法を採用しています。
・オープンデータ(CSV)のローカル環境へのダウンロード
・表計算ソフトによるダウンロードフォルダ内全データの集計
・Tableau Desktopによるデータ再読込とWEBアップロード
以上の3ステップとなりますが、設定済み各ファイルを更新するだけの作業となります。


【考察】
“各時点の状況”を表示するコントロール(タイムスライダーバー)を地図内に配置するパターンも作成しましたが、今回の時系列データの視覚化においてはマトリックスを主役とし、マップを脇役に配するスタイルが最適と判断しました。
空間的な相関関係を視覚化しようとする事例についてはマップを主役に、時間的な相関関係を視覚化しようとする事例についてはマトリックスを主役に、状況毎の視覚化手法の適切な使い分けが必要と考えています。

 
出典
以下の原典データに対して、4DGISLabが編集・加工を行っています。

「国土数値情報(行政区域データ)」(国土交通省)
「国土数値情報(市区町村役場データ)」(国土交通省)
「N2EMオープンデータ(住家被害 & 断水・給水)」 (N2EM)

 
参考情報
この取組みに関するタイムラインは、以下からご確認いただけます。

2020年7月14日公開『被災住家状況』
2020年7月15日公開『7月4日のできごと』
2020年7月16日公開『7月4日からのこと その1』
2020年7月17日公開『7月4日からのこと その2』
2020年7月20日公開『7月4日からのこと その3』
2020年7月27日公開『断水・給水状況』
2020年8月06日公開『災害発生から1か月』
2020年8月27日公開『伝わるように作る』
2021年5月14日公開『7月4日からのこと その4』